江戸の書簡を読んでみよう(泉川文書02-01)

さて泉川文書02の01。

少しずつ翻刻、読み下しをしていきますが、間違いなど多数あるものと思われ、コメントなどでご指摘頂きたく伏してお願い申し上げます。

翻刻案(自信なし)

①仍幸便一筆啓上仕候。

②向暖之砌御座候間、愈

③無御別条御座候由、珍重ニ

④奉存候。次ニ野生無異空

⑤消書仕候間、乍憚御安意可下候

読み下し(自信なし)

①こうびん によりて いっぴつ けいじょう つかまつり そうろう。

②こうだんのみぎりにござそうろうあいだ、いよいよ

③ごべつじょうなくござそうろうよし、ちんちょうに

④ぞんじたてまつりそうろう。ついでにやせい むい むなしく

⑤しょうしょつかまつりそうろうあいだ、はばかりながら ごあんいくださるべくそうろう。

意味(自信なし)

①ちょうどいいきかいがありましたのでお手紙をおかきします(というか定型文句か)。

②少しずつ暖かくなってきまして、ますます

③お変わりなくお過ごしとのこと、けっこうなことと

④存じます。ついでにワタクシメなんぞも相変わらずで、むなしく

⑤本なんぞ読んだりしておりますので、僭越ながらご安心くださいまし。

悩みどころ

①冒頭の一字、「仍」と読んでみたが、「任」に見えなくもない。「幸便にまかせて」という言い方はあるのだろうか。

②下から2文字目、御座候「間」と読んでみたが、点がちょいと一画飛んで、「處」のようにも見えなくもない。でも「間」ですよね・・・?うーん、文意からいってどちらでも良さそうな。以下に書く③の「珍重」の捉え方によっても、「間」か「處」かが代わってきそうな?

③の「珍重」を「結構なこと」と捉えてみたがどうでしょうか。「珍重」は書簡の上では「自重」、「自愛」の意味であると辞書にあり、となれば、「暖かくなってきて変わりなく過ごしているというが、ご自愛くださいね」という意味の方が強いのだろうか?

④書簡としてとても読みやすい優等生の文字だろうと思うけれど初心者の私には冒頭の「奉存候」がなかなか読めなかった。文脈から、これは「奉存候」だろうと当たりはつけてみたものの、最初は「奉上候」かな?と思った。
ところが字典を見ても「奉上候」という言葉は出てこない。
「奉賀候」があるのだから、類語で「奉上候」=「アゲタテマツリソウロウ」があったってよさそうなものなのに、ない。
たしかにここでの文脈から「奉賀候」とか「奉上候」とか、そんな大仰な語が入ってくる必要はなくて、もっとさらっとした「です」「思います」程度の語が入る方がよさそうなのですが。
「奉存候」をこんな風に崩すことを知らなかった私は古文書初級も良いところ。
字典の「奉」「上」「候」を渉猟していって、ようやく「奉存候か!」と行き当たった時の喜びが、そのまま古文書読みの喜びの一つであると、ゾクゾクしました。

④「次ニ」を「ついでに」と読んでみたけれど、これで合っているだろうか。

④「野生」は自分の謙称で間違いないところでしょうが、次の「無異(異体字)」は「むい」?「ぶい」? そして「空」は「むなしく」と副詞で読んで良いものか。まさか「無異空」で「いくう無く」でもあるまいし、しかし「いくう無」しの可能性も捨てられない上に、さらにいえば本当にこの文字は「空」なのかしら。

⑤本日の文中で一番翻刻に自信の無いのが「消書」。
この手紙の後段を読めばわかるとおり、差出人は九州の塾時代のお友達=インテリ。
ならば「志も遂げず、まあむなしく引きこもってお勉強っぽいことしたりしてますーてへへ!」という意味だろうなあとは思うのですが、手近な辞書には「消書」の熟語が出てこない。
そのうち図書館へでも行って「諸橋大漢和」あたりで調べてみよう。

⑤「乍憚」を「はばかりながら」と読むことに問題は無いでしょうけれど、昔のくずし字の「乍」は右に払ってあるような形で読みにくい。「乍恐」など頻出の語なのにいつもいったん「・・・!」と詰まって何だっけこれ、と思ってしまう。
この手紙全編に流れる冗談の雰囲気からすれば、ここの「はばかりながら」は出来ればそのまま「はばかりながら」と訳したくない。
太鼓持ちが「オイラの事なんか旦さんにはご興味ねぇでげしょうが、えへへ」と扇子で自分の頭を弾く感じが出たらいいけど、なかなかそんな現代語がピタリとはみつからない。
みつからないし、実際のところそこまで自虐感ある卑屈なギャグでは無いのかもしれない。うーん、どうなんでしょうね。

雑感

さて泉川文書02の01。

差出人不明であるが、どうやら日田の広瀬淡窓だとか福岡の亀井南冥だとか、そうした遊学時代の友人からの書状と思われる。

読んでいると多少のインテリ崩れの戯れ言感が強く、何というかこの小物感はそのままアタクシの姿、という気がしてきて、いささか気が滅入る。

が、基本的には旧友への軽いタッチの冗談メールといった感じでしょうか。

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古文書

Posted by 斑鳩大納言